印刷インキの環境対応の今後

印刷インキの環境対応について考えてみます。
印刷インキ工業連合会の定めた新しい環境対応インキ「植物油インキ」ならびにそのマークが発表され、約3ヶ月経ちました。現在のところまだ植物油インキマークのついた印刷物を目にしたことはありませんが、これからの印刷インキの環境対応、ラベル表示はどうなっていくのでしょうか。

まずは、大豆油インキとの関係をみてみます。

大豆油インキとはインキの石油系溶剤の一部を大豆油に置き換えたものです。詳しくは下記をご覧ください。

□ ソイシール商標(アメリカ大豆協会)

通常使われるオフセット印刷(枚葉)の場合は、「枚葉紙インキ:調合インキ全重量の20パーセント以上」となっていますので、インキ重量のうち20%以上が大豆油であれば大豆油インキとして認められるということです。

植物油インキの場合も同様に...

□ 植物油インキ(印刷インキ工業連合会)

「枚葉インキ:20%以上」となっていますので、大豆油に限るか、植物油全般を認めるかが大きく違いますが、鉱物油を植物油に置き換えるという意味ではかわりません。

枚葉インキ以外のインキもほぼ同様で、VOC排出削減、植物油の使用による石油系揮発性有機化合物の削減という意味での環境負荷低減効果は基本的に同等といえます。

実際に印刷インキ工業連合会では、ソイシールから植物油インキマークへの切り替えをアピールしていますので、ソイシールの後継マークとして位置付けられていると考えられます。

なぜソイシール(大豆油インキマーク)の置き換えが必要になるのでしょうか?

2007年のことになりますが、ソイシールを管理しているアメリカ大豆協会は、一度ソイシール事業の停止についてアナウンスしたことがあります。

下は当時(2007年4月)のニュースです。

□ 『ソイシール』廃止 米国大豆協 使用許諾業務を終了へ

しかし、その数ヵ月後、日本からの強い要望があったことなどから、「アメリカ大豆協会は今後も引き続きソイシール商標の使用許諾を行います」として今後もソイシールを継続することを表明しました。

アメリカ大豆協会のホームページがリニューアルされ、古い記事が見れなくなってしまったため、エコ印刷メールニュース(2007年7月)から引用します。

4月11日号「大豆油インキマーク(ソイシール)使用停止へ」で、大豆油イン
キマークが使えなくなる見込みであるとお伝えしましたが、先日、アメリカ
大豆協会では、多くの継続要望があったことから、商標権存続期間を延長し、
引き続きソイシールの使用許諾を行うと発表しました。これによって2011年
以降も大豆油インキマークが使用できる見込みです。

ただ、今回発表された植物油インキについての報道の中でも...

□ 印刷インキ工業連合会「植物油インキ」の定義および準拠マークの使用基準を設定

「大豆油インキの商標登録が2011年で切れるが、米国の大豆業界はマークを辞めるという意向を示しており、業界としてそれに替わるマークを用意しておいた方が良いということから検討した」という記事があり、2011年以降、ソイシールが使えなくなるといった状況も考慮しておく必要があるかもしれません。

こうした状況を踏まえると、単にソイシールから植物油インキマークに置き換わるだけともみえますが、果たしてそうとらえるだけで十分なのでしょうか?

ソイシールは、印刷物の環境マークとして再生紙使用マーク(Rマーク)と並び重要な役割を担ってきました。その結果、急速にシェアが拡大し、オフセット印刷用インキの約7割が大豆油インキとなるなど、広く普及し、一般化しました。

□ 大豆油インキ(印刷インキ工業連合会)

仮に大豆油インキが植物油インキに置き換わったとしてもこの状況は一緒です。7割のシェアを持つものが果たして環境に先進的な取り組みとしてアピールできる力を持つといえるでしょうか。

普及段階ではともかく、完全に普及してしまったものについて、マーク表示を行い環境主張することが果たして印刷物利用者に適切なコミュニケーションを行っているといえるか改めて考えてみる必要があります。特に2011年以降を視野に入れた取り組みであれば尚更です。

インキの環境対応について振り返ってみますと、化学物質の管理等さまざまな課題がありますが、最も注目されるのはVOCの排出です。植物油を活用することで、限られた資源である石油使用を抑制し、石油系揮発性有機化合物を削減することができます。

では、VOC排出削減という面でみて、大豆油インキ・植物油インキが最も優れているか、というとそうではなく、それらを上回るVOC排出抑制効果を持ったインキ、「ノンVOCインキ」があります。

石油系溶剤を全て植物由来の成分に置き換えたもので、環境負荷低減効果としては強い価値がありますが、まだまだ1%程度のシェアであり、環境報告書など環境に注目の集まる印刷物での採用が主です。(ちなみにエコ研の2008年度環境報告書・CSRレポート調査では、ノンVOCインキが29%、大豆油インキが54%となっています)

枚葉インキの組成
枚葉インキの組成

すでに述べたように大豆油インキは約7割を占めています。しかも大豆油インキを上回る環境性能を持つインキが実用化されています。もはや先進的な環境アピールであるとはいえないことは明らかでしょう。今後、ソイシールや植物油インキマークは、大豆油や植物油の使用を主張する以上に、環境に優れていることを主張する機能は持ち得ないと言わざるを得ません。

しかしながら、ノンVOCインキについては、大豆油インキのような統一した認定基準やマークがなく、インキメーカー等による独自マークが乱立している状態であり、積極的に採用し、マーク表示を行うには問題が多いのも事実です。インキ業界などには、ぜひノンVOCインキの共通した定義とマーク作成に取り組んで欲しいものです。

さらには、VOC以外の環境影響に着目した取り組みも求められます。地球温暖化への対応もその1つで、CO2排出量を元にした環境性能の「見える化」も重要な要素です。

その他にも廃棄物・国産資源を活用した「ライスインキ」なども製品化されています。

印刷発注者・調達者の取り組みとしては、印刷インキの環境影響のみをとらえるのではなく、印刷物全体を考えることが必要です。VOC排出であれば、インキの他にも、印刷工程や機器の洗浄における排出も大きな要素です。インキだけ配慮しておけば十分という時代は過ぎ、大きな視点での対応が求められます。

いずれにしても、インキの環境対応は、大豆油インキ・植物油インキがゴールではありません。どんな取り組みでも同じですが、現状に甘んじることなく、持続的な改善を行うことが大切だといえます。

(2009年4月28日)